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好きを考えるブログ

最果タヒ 「星か獣になる季節」

文庫版を買いました。

 

あらすじ(ネタばれあり)

ぼく(山城)の好きなアイドルが殺人事件を起こす。特別親しかったわけでもないクラスメイトの森下(彼もまた同じアイドルのファン)は彼女を冤罪にするために模倣犯となる。彼女は死体をバラバラに解体してそれをパワースポットで星型に並べていた。

森下は自分が犯人だと警察が気付くよう、信じるように、自分と近い人物を選び殺害していく。そしてそれを彼女がしたのと同じように星型に並べていく。

森下は5人で模倣の連続殺人を完結させようとし、その5人目を自分自身を殺すようにぼくに頼むが、僕は僕を殺せと森下に依頼する。

そして森下は僕を殺す。

 

好きなところ

最果タヒさんのきれいな文体で書かれているところ。内容はショッキングなはずなのにぼくに対して分かる、知ってるって言いたくなる。

 

感想

ぼくの書いた手紙で話が進んでいて、アイドルの彼女に対しての一種のファンレターのように感じる。その中で彼女に対する思いが痛いほど涙が出るほど分かる、分かるしか言えない。推しのために殺人は犯せないし、死ぬこともできないけれど。

でも私もこんな感情を持っていた、ずっと理解できないと思っていたけどこの本を読んで少し紐解く事が出来たのかもしれない。私もかわいいだけのきみが好きだった。平凡なきみが好きだった。もう何も知ることが出来なくてもこれからもきみが生きる幸せを祈らずにはいられない。

17歳は軽蔑の季節で私自身の17歳を思い返してみた。不運にも(幸運にも?)私は割と規格化された学校へ通っていたからあまりそういう事を感じなかった気がする。けど忘れているだけでアイデンティティを確立するために軽蔑しないと自分を保つ事が出来ないと思う時期もあったのだと思う。無意識すぎて忘れているのかもしれないしまだ気付けていないのかもしれない。

 

 

 

映画「お嬢さん」

映画「お嬢さん」 

原案 サラ・ウォーターズ 「荊の城」

 

めちゃくちゃおもしろかった。最高だった。

 

・内容(ネタばれあり)

日本統治下の朝鮮半島での話。

猟奇的な嗜好を持つ伯父に幼少期から屋敷内に幽閉されている秀子お嬢様。彼女の持つ莫大な財産を狙い、詐欺師の男がスッキという女を侍女として送り込む。 スッキは秀子お嬢様を騙し詐欺師と結婚させ財産を奪うつもりでいたが,侍女として働くうちに秀子お嬢様に魅かれていく。お嬢様と詐欺師の結婚が決まりかけていたある夜、秀子お嬢様は庭の桜の木に縄をかけ自殺を試みるが、スッキにより助けられ一命を取り留める。この秀子お嬢様の自殺未遂をきっかけにスッキは自分と詐欺師の計画をお嬢様に打ち明けてしまう。しかし、秀子お嬢様はその計画も全て知っており、更には自分もまた詐欺師と手を組み彼と偽装結婚したのちに、スッキを秀子として精神病院に閉じ込めてしまうつもりだったと明かす。 そしてここで2人は手を組むことを決める。その後、詐欺師を出し抜き秀子の財産を手に入れ、伯父の追手からも逃げ切り、二人は自由を手にする事になる。

 

・好きなところ

  • 美しさが至る所に詰まっているところ。和洋折衷のお屋敷・お屋敷内の装飾品・秀子お嬢様が身につける服〜服飾品の全て・秀子お嬢様自身。 
  • ストーリー展開が面白いところ。3部構成になっており、スッキと秀子お嬢様それぞれの視点で話が進む。 同じ月日を別視点で観るので2人の微妙な感情の変化やスッキの視点からでは分からなかった秀子お嬢様の行動の真意を知る事ができるところ。 また2人が手を組んでいる事は中盤以降まで伏せられているので、明らかになるまでは誰が誰を騙しているのか見ていてソワソワするところも面白い。
  • 「私の人生を壊しに来た救世主」        秀子お嬢様のこの言葉が堪らなく好き。 秀子お嬢様を縛り付け苦しめてきたものに、スッキが憤りながらその原因でもある書庫の蔵書を破壊して行く姿を見た秀子お嬢様の心に湧く言葉。不気味でおかしな生活を強いられていた秀子お嬢様の周りの人間は誰もこれを指摘することも正す事もせず彼女への関心もないに等しかった。けれど突然現れたスッキが彼女の事を想い考え、また彼女を苦しめるもの対して強い嫌悪感を示し行動を起こした事が秀子お嬢様にとって大きな救いであり光になったのだと思う。それがこの言葉に表れているように感じる。 この後に屋敷を抜け出し草原を駆け抜ける2人が笑顔で解放され自由を感じているように見える。 書庫の破壊~屋敷を抜け出すところまでの一連の流れが好きで私も誰かのスッキになりたいと思わざるを得ない。

 

 

・感想

原案のサラ・ウォーターズの「荊の城」はお嬢様と侍女の2人の意思とは別に周りの思惑があり、それに2人が翻弄されいく。彼女たちはお互いを強く想い合い一緒に逃げたいと思うけれども捨てきれない堅実な考えや踏み込みきれない葛藤があるために手を取って逃げる事が出来ない。一方で映画「お嬢さん」では2人が強く手を取って潔く駆け出していくので「荊の城」のパラレルワールドを見ている気持ちになる。私はスッキの心の強さにすごく魅かれたのでこの映画が好きです。彼女のような強さと正しさを持っていたい。

「私の人生を壊しに来た救世主」という言葉は韓国語ではどういうニュアンスになっているのかが非常に気になる。